化学工学系雑誌のインパクトファクター


我々大学人も業績評価がやかましくなってきている。大学人の業績とは「論文の数」である。論文の数は専門分野によりその数を稼ぎやすい分野とそうでない分野の差が大きい。化学工学の分野は論文生産数が少ないほうで、普通は研究者あたり年に数報程度であろう。(研究をしていないわけでなく、化学工学の論文として認められるような成果の割合が小さいということ。(言い訳・・))おとなりの応用化学分野ではこの数倍が常識的。さらに上には上があり、医学の分野は別世界で、年に数十があたりまえ、医学部教授ともなると累計1,000報を超えるという方も珍しくない。(週刊誌だね。)

そのような別世界の医学界では、業績の比較において数百という論文の数を比べても意味がないということで、教授選考などでは個々の論文にその「重要度」を乗じた総計値で評価するようになっている。

[リンク> 広大フォーラムより 歯学部教授選考の背景と経過 歯学部教授選考をめぐって

論文の重要度は本来はその論文自身の引用頻度citation indexで評価されるべきであるが、引用は何年も後のことであるし、個々の論文についての調査するのは煩雑である。そこで、簡便法として、論文の重要度をその論文が掲載された雑誌のImpact Factor (IF)で代用することが多くおこなわれる。

[リンク>インパクトファクターとは何か:正しい理解と研究への生かし方(愛知淑徳大学文学部図書館情報学科山崎氏)
[リンク>インパクト・ファクター(けんちゃん学術研究WWWブラウザ)
[リンク>アサヒインターネットキャスター 大学幕の内

この雑誌毎のIFの値は、米国のISIのScience Citation Index(SCI)の年度末サマリーであるJournal Citation Report(JCR)に公表されている。JCRは多くの大学図書館にある。

IF の計算方式は実に単純で、

IF = (その雑誌の前年および前々年掲載論文の当該年内被引用回数)
(その雑誌の前年および前々年掲載論文数)

である。すなわち他の論文で引用された論文が多く掲載されている雑誌が、結果として数値が大きくなる。例えば著名な科学誌 ScienceなどはIFが20以上あるが、これをこの雑誌の論文1報は並の論文の20報分の重要度があるというふうに解釈することになる。

化学工学分野ではいまのところ関係ないかとも思えるIFであるが、化学工学関係の雑誌についてもIFがついているので示してみる。

  1994年 1997年 1998年 1999年 2002年 2004年 2006年 2007年 2008年
Adsorption       1.043 0.931   0.590 0.833  
AIChE Journal 1.359 1.338 1.420 1.537 1.793 1.761 2.153 1.607  
Angew Makromolekulare Chemie 0.548 0.465 0.488   0.755        
Biotechnology and Bioengineering 2.474 1.979 2.059   2.037   2.999 3.037  
Canadian J. of Chemical Eng. 0.532 0.517 0.508 0.569 0.679   0.480 0.463  
Chemical Engineering and Processing               1.156 1.518
Chemical Engineering Communications 0.385 1.219 0.356  0.254 0.410   0.350 0.450  
Chemical Engineering Journal               1.707 2.813
Chemical Engineering Progress 0.467 0.523 0.324  0.451 0.966   0.293 1.156  
Chemical Engineering Research & Design     0.516 0.686 0.605   0.747 0.837 0.989
Chemical Engineering Science 0.902 1.083 0.998 1.218 1.547 1.655 1.629 1.775 1.884
Chemie Ingenieur Technik 0.257   0.380 0.663     0.407 0.401  
Chinese J. Chem. Eng.       0.261 0.233   0.393 0.462 0.572
Computers & Chemical Engineering               1.238 1.755
Desalination 0.318 0.278 0.285  0.434 0.658 1.057 0.917 0.875 1.155
Environmental Science & Technology 2.603 3.623 3.511   2.707   4.040 4.363  
Fluid Phase Equilibria 0.906 1.065 0.829 0.929 1.217   1.680 1.506  
Ind. & Eng. Chem. Research 1.056 1.211 1.229 1.29 1.351   1.518 1.749  
Indian J. Chem. Techn.       0.317 0.197   0.301 0.429  
J. of Applied Polymer Science 0.87 0.841 0.886   0.992   1.306 1.008  
J. of Chemical Engineering of Japan 0.611 0.566 0.687 0.690 0.690   0.594 0.594  
J. of Chemical Tech. and Boitech.     0.844 1.018 0.970   1.276 1.426  
Journal of Membrane Science 1.492 1.36 1.406 1.581 1.706 2.108 3.422 2.432 3.247
J. of Polymer Science Part A Chem 1.299 1.202 1.237   1.975   1.306 3.529  
J. of Polymer Science Part B Phys 1.35 1.327 1.031   1.180   1.306 1.524  
J. Supercritical Fluids               2.189 2.428
Kagaku Kogaku  Ronbunshu化学工学論文集     0.469  0.226 0.355   0.294 0.327  
Korean Journal of Chem. Eng. 0.081 0.18 0.322  0.304 0.895   0.808 0.747  
Macromolecules 3.016 3.50 3.440   3.733   4.277    
Polymer 1.36 1.358 1.370   1.681   2.773    
Polymer Journal 0.905 0.974 0.979   0.941   1.146 1.421  
Powder Technology               1.130 1.766
Separation and Purification Methods 0.875 1.167 0.571 1.286 2.250        
Separation and Purification Technology     0.091 0.707 0.550 1.227 2.497 2.142 2.503
Separation Science and Tech. 0.838 0.761 0.695 0.911 0.862   0.824 1.048  
Water Science and Technology 0.665 0.775 0.896   0.605     1.240  
Zeolites 1.829 2.225 1.771            

いろいろと興味深いが、先ず驚くのは、この単純な式で機械的に算出された係数が、我々が何となく感じている「学術雑誌のランク」にかなりよく一致していることである。インパクトファクターがこれだけ一般化した秘密は、雑誌の”権威”というあいまいなものをドライに数値化し、それが一般の感覚に合っていたことにあるのだろう。

J. Memb. Sci. がAIChE J.の上なのはご同慶の至りである。わがJ. Chem. Eng. Japanはあれだけ審査が厳しいにもかかわらず、IFが意外に低いのは残念である。Korean .J. of Chem. Eng.などは創刊間もないのにIFが出るだけ立派である。

各国の化学工学会発行雑誌ランキング!

  1994年 1997年 1998年 1999年 2001年
米国AIChE Journal 1.359 1.338 1.420 1.537 1.793
日本J. of Chemical Engineering of Japan 0.611 0.566 0.687 0.690 0.690
英国Chemical Engineering Research & Design     0.516 0.686 0.605
ドイツChemie Ingenieur Technik 0.257   0.380 0.663  
カナダCanadian J. of Chemical Eng. 0.532 0.517 0.508 0.569 0.679
韓国Korean Journal of Chem. Eng. 0.081 0.18 0.322  0.304 0.895
インドIndian J. Chem. Techn.       0.317 0.197
中国Chinese J. Chem. Eng.       0.261 0.233

もちろん単純であるだけに、IFには問題も多い。前年2年間の引用というのは化学工学分野では明らかに短期間過ぎる。日本語の雑誌は対象外である。雑誌によってはIFを上げるために特に対策をおこなっているところもあるようである。

インパクトファクターを上げるための対策
・編集委員会が投稿者に自雑誌の論文を引用するよう勧める
・投稿から掲載までの期間を極力短くする
・レビュー論文を増やす
・年間刊行冊数を増やす

自分が投稿した雑誌のIFを見て面白がっているにはいいが、IFが実際に自分の業績評価に使われるほど世知辛くならなければよいが。