疎水性多孔質膜を利用した膜蒸留および液体膜蒸気透過の2段膜分離によるエタノール水溶液の濃縮

段淑紅・山本敦博・田巻岳・伊東章・大川輝:分離技術 (2001)を修正


1. 緒言

バイオ生産物である低濃度エタノール水溶液からのエタノール分離法は膜分離工学の大きな目標であり、多くの研究がなされている。(Nakane(1987)) 低濃度エタノール水溶液からエタノールを回収するにはエタノール成分を優先的に透過分離できる膜の開発が第一の目標となる。しかし現状ではエタノール選択透過膜の開発は疎水性ゼオライト(Sano(1994))など限られており、研究段階にある。
一方、エタノール水溶液またはエタノール/水混合蒸気から水成分を選択的に透過分離できる膜材料は多く知られている。例えばポリイミド(Yanagishita(1994))、キトサン(Watanabe(1996))などであり、ポリビニルアルコール複合膜などはすでに高濃度アルコール水溶液からの脱水操作に実用化されている。
このことから、1段の膜分離でエタノールを濃縮するのではなく、膜蒸留法と蒸気透過法をハイブリッドした2段の膜分離法が考えられる。すなわち第1段で膜蒸留により平衡蒸気ないしそれを超える濃度のエタノール/水混合蒸気を発生させ、それを第2段の蒸気透過法で脱水して高濃度エタノール蒸気を得る方式である。この2段階膜分離プロセスは既往の膜プロセスの組み合わせで構成できるので実用可能性が大きいと考えられる。

筆者は先にシリコーンゴム膜によるキャリアガス中へのパーベーパレーションとポリイミド膜での蒸気透過法を組み合わせた2段膜分離法を検討した。(Ito(1990)) しかしこの方法は、キャリアガスを介在させることで操作が複雑であった。また、2段目のポリイミド膜は透過性が低いため高温に保つ必要があった。
本研究ではこの2点を解決するため、キャリアガスを使用しない形式の膜蒸留−蒸気透過分離による2段膜分離プロセスを検討した。このプロセスでは超疎水性多孔質膜を応用していることが特徴である。すなわち先ず超疎水性多孔質膜による膜蒸留で透過蒸気を得、次いで超疎水性多孔質膜で支持された親水性液体膜でその蒸気の脱水をおこない、未透過蒸気中にエタノールを濃縮しようとする方法である。

2. 疎水性多孔質膜による膜蒸留

第1段では多孔質膜による膜蒸留法により、低濃度エタノール水溶液(9 mol%)から30 mol%程度に濃縮された蒸気を得る。使用した膜は超疎水性多孔質膜であるDurapel膜(ミリポア社、材質:フッ素表面処理を施した二フッ化エチレン、厚み125μm、空隙率70%、公称孔径0.22μm)である。この膜は10 mol%のエタノール水溶液なら0.16 MPa、30%で0.1 MPaの加圧まで水溶液が膜内に進入しない。膜蒸留操作では膜間差圧は最大0.1 MPaなので、この多孔質膜は30 mol%までの低濃度エタノール水溶液の膜蒸留に使用できる。

Fig.1にDurapel多孔質膜による膜蒸留での透過分離性を示す。測定は膜面積24 cm2の平膜セルにDurapel膜を設置し、片側に大気圧・室温でエタノール水溶液を供給し、透過側を真空または低真空に保つことで透過蒸気を得た。透過側を真空(0.4 kPa)に保ち、供給液エタノール濃度xfを変化させた場合の透過蒸気濃度ypと透過流束をFig. 1(a)に示す。透過蒸気濃度は気液平衡値より低い傾向にある。(平衡蒸気組成は1気圧、298 Kでの値。)透過流束の値は高分子膜(図中にシリコーンゴム膜(Ito(1995))を示す)の10倍以上である。このように透過流束が大きいことが原因で膜面での濃度分極が生じ、透過蒸気濃度が平衡値から低下するのが、多孔質膜による膜蒸留の特徴である。(Kokugan (1997)) Fig. 1(b)は供給液濃度を0.095として、透過側圧力Ppを真空(0.4 kPa)から低真空)へ変えた場合の透過特性である。横軸は供給液の飽和蒸気圧P* に対する透過側圧力Ppの比である。透過側圧力を上げると透過流束は減少する。透過流束の減少にともない濃度分極の影響が小さくなり、透過蒸気濃度は平衡蒸気濃度に接近する。なお、本研究の膜蒸留では透過蒸気のエタノール濃度は気液平衡以下であったが、多孔質PTFE膜を使用した場合には透過側圧力を上げて平衡蒸気圧に近づけると気液平衡を超える濃度のエタノール蒸気が得られる。(Kokugan(1997), Hoffmann(1987))比較のためFig.1(b)中にHoffmann(1987)のデータを示す。

Fig. 1 Pervaporation (membrane evaporation ) of ethanol/water solution using a hydrophobic microporous membrane. (a): Effect of feed concentration. (b): Effect of permeate side pressure. - - - -: Silicone rubber membrane (Ito(1005)), − −: PTFE microporous membrane (Hoffmann(1987).

3. 親水性液体膜によるエタノール・水混合蒸気の透過分離特性

第2段の蒸気透過分離用には親水性有機溶媒による液体膜を用いた。この液体膜はすでに著者により除湿膜として検討された(Ito(2000))が、ここではエタノール/水混合蒸気からの水蒸気除去に応用した。

Fig.2に膜の構成および蒸気透過実験装置を示す。使用した液体膜は第1段の膜蒸留用に使用した超疎水性多孔質膜(Durapel膜)の上にトリエチレングリコールなどの親水性液体を含浸した多孔質膜を重ねた構造である。液体含浸用の多孔質膜は親水性処理したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜(アドバンテック、膜厚み35μm、公称孔径1μm、多孔度83%)である。液体成分はエチレングリコール類とアミン類である。液体膜の厚みは重量法で測定した。前節のように、水や低濃度エタノール水溶液は透過側を真空に保ってもDurapel多孔質膜の撥水性により膜内に浸透しない。これは液体がトリエチレングリコールなどの親水性液体の場合も同様である。親水性の含浸液体膜は超疎水性多孔質膜の撥水性によりその表面上で保持されるので、透過側を真空に保った蒸気透過分離操作が可能である。測定は大気圧のキャリアガス(空気)中にエタノール/混合蒸気を飽和させて膜面に導き、透過側を真空に保つことでおこなった。供給側出口、透過蒸気を冷却トラップで捕集して分析した。Fig. 5 Two-stage membrane separation of ethanol/water solution by membrane distillation and vapor permeation.

Fig. 2 Experimental setup for vapor permeation of ethanol/water mixed vapor through a liquid membrane.

Fig. 3 に液体膜の分離性を示す。図の横軸は供給蒸気(空気を除いたエタノールと水蒸気の2成分)中のエタノール組成である。上図は透過蒸気濃度、下図は透過速度である。どの液体膜も透過蒸気には水が濃縮されており、供給蒸気濃度50%程度までは良好な水選択透過性を示している。しかしエタノール蒸気濃度が濃い範囲では透過蒸気中のエタノール濃度が増加し、分離性が低下する傾向にある。ここで液体膜として使用した親水性溶媒の中ではTEG<PEG<アミン類(DGA,DEA)の順に、エタノール濃度の高い範囲で水選択性が大きくなっている。この液体膜の蒸気透過では溶解過程が分離を支配していると考えられるので、水蒸気についての溶解選択性が大きい溶媒の順に水選択性が大きいものと考えられる。

Fig. 3 Vapor permeation of ethanol/water mixed vapor through liquid membranes. ■:Diglycolamine (DGA)(δ=48μm), □:Diethanolamine (DEA) )(δ= 74 μm), △:Polyethylene glycol 400(PEG400) )(δ= 74 μm), △:Triethylene glycol (TEG) )(δ=126 μm),

Fig.4 はポリエチレングリコール400を用いた液体膜について蒸気透過係数を求め、他の膜と比較したものである。本研究で使用した液体膜はシリコーンゴム膜より水蒸気透過係数が大きく、親水性高分子膜(ポリビニルアルコール)と水蒸気/エタノール分離係数は同程度である。なお、液体膜の分離係数はエタノールの分圧が上昇すると低下する傾向にある。

Fig. 4 Vapor permeabilities of ethanol (△) and water (○) through PEG400 liquid membrane.

4. 2段膜分離
本研究のエタノール水溶液の2段膜分離法は、上記2つの膜分離法を連続してひとつの膜セル内でおこなうものである。実験装置をFig. 5に示す。膜蒸留用疎水性膜には、Durapel膜を用い、蒸気透過分離用にポリエチレングリコール400による液体膜を使用し、これらを重ねて構成した。膜セルは、膜面直径51mm、膜面積22.3 cm2である。蒸気透過膜の透過側Ppは常に真空に保ち、中間部の減圧度Pmを真空コントローラで調節した。これは真空ポンプに接続して背圧(中間部圧力)を制御するものである。膜透過蒸気および未透過蒸気を冷却トラップ(-20℃)で捕集した。実験は供給液エタノール濃度9.5 mol%、操作温度約28 ℃でおこなった。

Fig. 5 Two-stage membrane separation of ethanol/water solution by membrane distillation and vapor permeation.

Fig. 6 に実験結果を示す。図の横軸は膜セル中間部の圧力Pmを供給液の蒸気圧P*で除したものであり、上図が透過蒸気のエタノール濃度、下図が蒸気透過速度である。○印が中間圧力部から得られた蒸気、△印が液体膜を通り真空側に透過した蒸気を示す。□印はこれらを合計した全透過流束である。中間部圧力が上昇するにしたがって全透過流束は減少するが、真空側へ透過する蒸気割合が増える。これにともない、未透過蒸気中(中圧側出口蒸気)にエタノールが濃縮される。この膜では86 mol%まで濃縮された蒸気が得られた。

Fig. 6 The effect of operation pressure on the separation performance of the two-stage membrane separation process. − −: Calculation by using of Hoffmann's data (Hoffmann(1987)).

5. 2段膜分離法のモデル解析と考察
解析は以下のようにおこなった。第1段の膜蒸留で得られる蒸気濃度および蒸留速度に関してはFig. 1(b)で示した実測値(図中の実線が計算に使用した値。)、第2段の蒸気透過分離については別に測定した蒸気透過係数(Fig. 4)を用いる。蒸気透過分離については中間部蒸気流れにプラグフロー、真空側に完全混合を仮定した。基礎式は以下のようである。

ここで、F1,F2はエタノールおよび水蒸気の中間部流量、Qは液体膜の蒸気透過係数である。中間部圧力Pmを設定して上式を積分することで2カ所の蒸気出口での蒸気流量・濃度が求められる。
Fig. 6の実線・破線でモデル計算の値を示す。計算値は真空側、中圧側の透過流束と透過蒸気の濃度の傾向をよくあらわしている。

このモデル解析によりエタノール分離に最適な各段の膜面積の比や回収率を上げるための操作条件を推定できる。本研究の範囲では1段目、2段目とも共通の膜を利用したため、第1段での膜蒸留におけるエタノール濃縮度は低かった。しかし、多孔質PTFE膜のように、気液平衡より高濃度の蒸気が得られる膜を第1段として使用すれば、真空度の低い膜蒸留を利用する2段膜分離法の特徴が生かされる。例えばFig. 6中には、Fig. I(b)に示したPTFE膜による蒸気濃度(Hoffmann(1987))を第1段と仮定した場合の計算値示す。(中圧側蒸気濃度のみ。)この膜構成により90mol%を越えるエタノール濃縮が得られると予想される。

以上のモデル考察からも、本プロセスの長所として既往の膜の組み合わせでエタノールの高度濃縮が実現できること、および膜面積の組み合わせや透過側圧力の設定によるプロセスの柔軟性が挙げられる。なお、短所としては液体膜の分離性がエタノール高濃度範囲で低下することであり、さらに検討が必要である。

6. 結論
超疎水性多孔質膜によるエタノール水溶液の膜蒸留、および親水性液体膜によるエタノール混合蒸気の蒸気透過分離性を調べた。次いで、これらをひとつの膜セル内でおこなう膜蒸留−蒸気透過分離による2段膜分離プロセスを構成し、低濃度エタノール水溶液からのエタノールの濃縮性能を調べた。膜蒸留で得られた平衡蒸気を蒸気透過法で脱水することにより中圧部蒸気出口で高濃度エタノールを得ることができた。

Notation
y = ethanol mole fraction of ethanol/water mixed vapor [-]
x = ethanol mole fraction of ethanol/water solution [-]
Pp = permeate side pressure [kPa]
Pm = low-vacuum side pressure [kPa]
P* = vapor pressure of feed solution [kPa]
Q = permeability [mol・m/(m2・s・kPa)]
F = molar flow rate in low-vacuum side [mol/s]
A = membrane area [m2]
δ = liquid membrane thickness [m]

Subscript
1 = ethanol
2 = water
f = feed side
m = low-vacuum side
p = permeate side or vacuum side

Literature cited

Ito, A., M. Fujii and T. Harada, "Two-Stage Membrane Separation with Carrier Gas for Ethanol-Water Mixtures Using Silicone Rubber and Polyimide Hollow Fibers", J. Chem. Eng. Japan, 23, 175-179 (1990).
Ito, A, K. Watanabe, Y. Feng, " Swollen-Dry-Layer Model for the Pervaporation of Ethanol-Water Solution through Hydrophilic Membranes", Sep. Sci. Tech, 30, 3045-3060 (1995).
Ito, A., "Dehumidification of Air by a Hygroscopic Liquid Membrane Supported on Surface of a Hydrophobic Microporous Membrane", J. Membrane Sci., 175, 35-42 (2000).
Kokugan, T., Kaseno, E. Yoshimoto et al., "A Consideration of Pervaporation by Porous Hydrophobic Membranes for Dilute Ethanol Solution", J. Chem. Eng. Japan, 31, 153-156 (1998).
Hoffmann, E., D.M. Pfenning, E. Philippsen et al., "Evaporation of Alcohol/Water Mixtures through Hydrophobic Porous Membranes", J. Membrane Sci., 34, 199-206 (1987).
Nakane, T., "Concentration of Aqueous Alcohol Solution by Membrane", J. Separ. Pro. Eng. Jpn., 17, 32-38 (1987).
Sano, T., H. Yanagishita, Y. Kiyozumi et al., "Separation of Ethanol/Water Mixture by Silicalite Membrane on Pervaporation", J. Membrane Sci., 95, 221-228 (1994).
Watanabe, K., "Pervaporation Separation of Alcohol by Chitosane Coated Membrane", J. Separ. Pro. Eng. Jpn., 26, 24-28 (1996).
Yanagishita, H., C. Maejima, D. Kitamao et.al., " Preparation of Asymmetric Polyimide Membrane for Water/Ethanol Sseparation in Pervaporation by the Phase Inversion Process", J. Membrane Sci., 86, 231-240 (1994)


Two-stage membrane separation of ethanol/water solution by liquid membrane and membrane evaporation using a hydrophobic porous membrane.

Keywords: Membrane distillation, Vapor permeation, Liquid membrane, Ethanol-water separation

Abstract
Separation performances of ethanol/water mixture were tested by a membrane distillation process and a supported liquid membrane process. These both processes utilize a highly-hydrophobic porous membrane (Durapel, Millipore). A two-stage process was constructed and tested, which consists of the porous membrane for membrane distillation and the liquid membrane in one cell. Ethanol is concentrated form a dilute aqueous solution in membrane-evaporated vapor. Then, the liquid membrane of hygroscopic liquid, polyethylene glycol 400, removes water form the vapor. Ethanol is highly concentrated in residual vapor outlet flow. The separation performance of the two-stage membrane was shown and compared with theoretical calculation based on vapor permeabilities of the liquid membrane.