液体膜による除湿プロセス


空気からの除湿プロセス 従来の技術 空気の除湿は家庭用から工業用までその需要は大きい。除湿プロセスは多くの方法が既に実用化されている。

空気を冷却して水蒸気を凝縮させるタイプの除湿機は最もプリミティブで、家庭用などに普及しているが、言うまでも無くエネルギー消費が大きい点が問題である。トリエチレングリコールなどの吸湿性液体を用いた吸収法による除湿プロセスは工業的に多く用いられる。しかし吸収法は本質的に再生操作が必要であり、複雑なプロセスとなる。吸着剤を用いた除湿機もある。これも再生操作が必要であり、プロセス的エネルギー的に有利ではない。

水蒸気選択透過性の高分子膜(ポリイミドなど)による膜透過法は本質的に省エネルギー、連続操作ができるなど優れたプロセスである。しかし固体高分子膜を通しての透過であるため、透過量が小さい、膜が高価であるという問題がある。

家庭用除湿器( 1時間あたり凝縮水400cc。消費電力250W。)

工業用吸収液式除湿プロセス

膜式除湿器

これまでの研究経緯 除湿膜について県内産ゼオライトの活用を目的に、これを吸湿性ポリマーと混合して膜にすることにより、除湿膜として使用できることを明らかにした。しかし、この方法は膜の耐久性に問題があった。

超疎水性多孔質膜を利用した液体膜保持法 本研究では吸収法で用いられるエチレングリコール類を液体膜として利用する膜除湿プロセスを考案し、その性能を検討した。液体膜は超疎水性多孔質膜(Millipore社のDurapel膜 , フッ化物表面処理したPVDF膜, 公称孔径0.1μm )の表面上に、吸湿性液体を含浸した多孔質膜 ( アドバンテック社, 親水性PTFE膜, 公称孔径1μm, 多孔度83 %)を重ねたものである。吸湿性液体として、トリエチレングリコール(TEG)、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール400(PEG400)が使用できる。これらの液体は250 kPa程度の加圧までDurapel多孔質膜内に侵入しないので、この複合膜の透過側を高真空に保持することが可能である。

右図 にこの複合液体膜の水蒸気および空気の透過係数を示す。測定は差動トランスと鉄心入り浮きを利用した蒸気透過係数測定装置3)による。この液体膜の水蒸気透過係数は除湿用高分子膜と同程度、空気との理想分離係数は2000以上である。

除湿実験装置および方法 除湿実験は膜面積24 cm2の平膜セルに所定の加湿空気を供給し、透過側を真空ポンプで0.2 kPa以下に保つことでおこなった。膜セルの入口および出口空気の湿度は酸化アルミニウム膜式露点計(日本冶金 NS-100)で測定した。

実験結果および考察 右図は空気流量100 cm3/minで一定として、供給空気湿度を変えておこなった除湿実験の結果である。例えば湿度で70%→12%, 露点で16℃→  -9.3℃への除湿が可能であった。Fig. 4は透過側圧力の除湿性能におよぼす影響を調べたものである。本プロセスが十分な除湿性能を持つためには透過側を空気中の水蒸気分圧以下、できるだけ高真空に保持することが必要である。両図中の理論線は別に測定した透過係数を用いて、供給側プラグフロー-透過側完全混合モデルにより理論計算をおこなった結果である。実線が供給側流れ中の物質移動抵抗を境界層理論で考慮したもの、破線がそれを無視したものである。このモデルにより液体膜除湿プロセスの性能がよく表せた。

液体膜による除湿法の特色 この方法による除湿プロセスは、@従来の吸収法や冷却凝縮法に比較して、膜面積に対応して小流量から大流量の、広い範囲の空気の除湿に対応可能、A従来の吸収法や吸着法に比較て、再生操作が不要なのでメンテナンスフリーである、B従来の高分子膜による除湿法と比較して、除湿性能はそれより大きくかつ市販の材料・膜で構成できるので、安価に除湿機を構成できる、などの効果がある。

今後の検討 除湿器のプロトタイプの試作をおこない、その除湿性能を検討する。予備実験装置を、膜面積にしてを100倍程度スケールアップした膜面積0.3m3程度の膜除湿装置を制作し、その除湿性能を検証すことを計画した。(下図)この装置により市販の家庭用除湿器の1/25程度の除湿性能(凝縮水にして16cc/hr)が期待される。

除湿器の試作にあたっては@大面積の膜モジュールの設計、A真空ポンプの選定の2点が課題となる。第一の課題は大面積膜モジュールの構成と設計である。本形式における分離膜そのものは市販の材料から安価に構成できるが、液体膜であるという点から大面積膜モジュールの構成法に課題がある。

基本的には平板型の膜を多層に構成して、一定容積内で膜面積を増やすという構成になると思われるが、種々試作して、最適な膜モジュールを開発する予定である。膜の耐久性についても長時間のテストが必要である。実用面での第二の課題は透過側を減圧するための真空ポンプの選定である。