新潟大学工学部におけるマルチメディア支援教育の試み

1998/10/24 化学ソフトウェア学会年会「'98研究討論会」 基調講演

新潟大学工学部化学システム工学科 伊東章


インターネットはビデオ・画像を加えたマルチメディア情報の提供手段として発展中である。この情報技術の革命の影響が、教育の現場、特に昔と全く変わらない大学における講義の方法(教科書と板書)におよんでくるのは当然である。インターネットが情報インフラとして今後の社会に重要な位置を占めることが明らかになった現在、大学教育へこそ積極的にインターネットのマルチメディア技術をとりいれることが、魅力ある講義、ひいては大学教育の活性化をもたらす契機となるであろう。当「化学ソフトウェア学会」でもインターネット技術(インフラ)の教育への応用に注目が集まっているように見受ける

パソコン
(個々の使用)
教科書
資料

板書・ノート

ビデオ
手紙
アンケート
レポート
出欠とり
OHP
   

ネットワーク接続のパソコンへの統合

新潟大学工学部ではインターネットがこれほど進展するとは思われていなかった4年前より、その教育利用に着目して先進的に取り組んできた。この取り組みは文部省の「大学改革推進等経費」によるもので、工学部では「マルチメディアを活用した工学教育」を実施する趣旨で、これに応募してきた。これらプロジェクトの申請は平成6・7年度「マルチメディア教育設備」、8年度「無線LAN」,そして9年度「工学教育におけるビデオ・オン・デマンドとインターネットを統合活用した双方向性マルチメディア授業の実施」と連続して採択された。その結果、工学部全講義室への液晶プロジェクタの配備、学生卓へのLANコンセント配備各種方式のビデオオンデマンドシステムなど現状最先端のマルチメディア設備が整った。これほどの機器を設備している部局は全国的にもまれであろう。現在この経費で導入された設備を活用して、工学部におけるマルチメディア教育を推進するために、「マルチメディア教育推進作業部会」により組織的な取り組みがなされている。(教材資料

以下にこの活動の中からインターネット上の新しい技術をどのように大学教育に活用してゆくかのアイデア集のような形式で順次紹介する。各位の講義改善のヒントとなれば幸いである。

マルチメディア教材と講義 専門科目の内容をインターネット上のコンテンツとして作成する。(図1)テキスト、図、 写真、 ビデオを取り込んだマルチメディア性のある教材が作成可能である。(音声も)リンクを掲載しておくことでWeb上の教材は世界中のインターネット資源と一体化する。この教材は同時に社会へひらかれた大学の情報発信の役割も果たせるであろう。(図2)

コンテンツの製作も日常使用しているワープロの文書からHTMLファイルや図が自動生成できるようになり、容易になってきた。pdf形式の掲載形態も広まるであろう。

教材作成上の留意点は著作権であり、基本的に全てのコンテンツはオリジナルでなくてはならない。(写真教科書の図)この点で教官個人としては教材作成の労力が大きい。しかし、教材は相互利用できるので、全国的な協力体制により各専門の教材の整備が進むことを期待したい。

講義室では教官が作成したWWW教材をプロジェクタで提示し、これを解説する形式で講義をおこなう。最近の液晶プロジェクタはOHP並みの明るさがあるので、講義室内を暗くする必要はない。同じ資料を印刷して学生に配布しておく。あえてノートと板書形式の講義をおこなっていない。プロジェクトされたパソコン画面は動きが少なく単調になりやすいので、パソコン画面上に電子ペンでマークや板書することでポイントを示す工夫をしている。(図3)

マルチメディアの特性を生かし、学生の目をそらさせずに同一画面でテキスト、音声・映像を同時提示することにより長時間講義に集中させられる。分子模型も効果的である。Javaによる教材も提供されている。また工学部の講義では、実際の製造現場や、実験の映像・ビデオを同時に提示することで学習の動機づけができる。

講義室内の学生も各自パソコンを持ち、同じ教材を手元で閲覧しながら聴講する形態がのぞましい。(図4)この形態により後述の「双方向性」を活用した講義手法が実現される。

学習者が使えるコンテンツ 工学教育で演習は必須であるが、従来は教科書・資料と電卓を用いノート上でおこなうものである。インターネットのコンテンツとして、演習書代わりの計算できる演習ページ(図6)を用意して、さらにブラウザ上の表計算(図5)を用いることで、学生の手元のパソコンで効果的な演習が実施できる。(プロダクト情報:コンポーネントライブラリ Justsystem CoreCube(インデックス) 計算できる演習ページはブラウザ上のプログラミング言語VBScriptを用いたコンテンツで構成できる。サーバーにデータベースを用意しておき、参考資料代わりに活用してもらう。(研究者検索

双方向性授業 インターネットは自らアクセスするという意味では双方向性であるが、静的なコンテンツだけでなくサーバー側に応答するしくみを備えることで、さらに双方向性を多面的に活用できる。(図7,8)たとえばクイズやアンケートをとり教授内容にその場で反映させる、講義内容への質問を随時送ってもらい講義中に答える、などの活用が考えられる。特に従来の講義室では学生が質問を発することがほとんどない。これは講義を中断することを遠慮してのこととも考えられるので、学生が手元の端末から質問をおこなうことは、講義の流れを止めず、質問を発しやすくするのに効果がある。

これらは端末からの入力情報をサーバーコンテンツに反映させる技術を利用している。これは一般(UNIX上)にはCGIと呼ばれる手法であるが、WIndowsNT上のActive Server PagesはBASIC言語なので取り組み易い。先のブラウザ上で動くプログラムも、このサーバー上で動くプログラムも基本的にはBASIC言語なので、今後はこれまで教育用に開発されていたプログラム類を移植することが期待される。個人的には連立方程式解法や微分方程式解法プログラムのような数値計算ライブラリがWeb上に整備されることを期待している。

 

 

ネットワーク上でのプログラムの共用 化学工学の分野の現場ではプロセス設計はCADとプロセスシミューレーションソフト上で成されている。教育分野にこれらプロセスシミュレーションソフトを導入することはコスト面で困難であったが、LAN上で稼動するシステムを導入することで導入が容易となる。化学システム工学科ではProII/Provision(SimSci社)EQUATRAM-G(オメガシミュレーション)を利用したプロセス設計教育を試行している。これらはWeb上で使用されるものではないが、各大学での演習内容をWeb上に公開し、共有することでより効果的な活用ができる。

Web上のビデオオンデマンド 端末で動画(ビデオ)が自由に選択視聴できるビデオオンデマンドこそマルチメディア環境のひとつの目標である。数年以前はこれはアナログ映像を基盤として、LANとは別に構成がされていた。Web上にビデオファイルを掲載する場合も、ファイルをダウンロードしてから再生するため、1分以内のビデオが限度であった。

しかしインターネット技術は進歩を続けており、デジタルビデオ映像のLANの帯域での配信と普通のパソコンでの視聴が可能となりつつある。(図9)これにより上記のWeb教材上にビデオオンデマンドシステムを組み込むことができる。

LAN上でのビデオオンデマンド実施には「帯域」の考慮が必要となる。

ストリームビデオ形式と帯域 インフラ
MPEG2 3Mbps  
AVI 3Mbps 10BASE 10Mbps
MPEG1 1.5Mbps ルーター 1Mbps
   
RealVideo独自形式  100Kbps ダイアルアップ  5Kbps

現在各種方式が提案されており、どの方式が主流となるか状況は混沌としている。現状ではMPEG1規格のビデオを基準としたシステムが標準となるであろう。また中継放送(ストリーム)学内でのビデオオンデマンド学外へのビデオの提供を分けて取り扱うのが良いであろう。当学部ではそれぞれ、IP/TV、MediaBase、RealVideoを試用している。ビデオオンデマンドこそマルチメディア技術の教育効果をただちに示すことのできるものである。

結言 新潟大学工学部における試みをアイデア集のような形式で紹介した。各位の実践の参考になれば幸である。ネットワーク上のコンテンツは相互利用があってこそその可能性がひろがる。いろいろな分野でのコンテンツの製作と公開が化学系教育の活性化、ひいては「理科離れ」対策につながるものと確信している。