大学の教育課程

高校生は卒業まで13年間の教育を受け、統一大学入学資格試験に合格すればどこの大学でも入れる。大学個々の入試はない。入学する学生は高校までで7年の英語教育を受けており、英語による講義を受けられる基礎ができている。

日本から高校卒業後ドイツの大学に入学する場合は、日本の高校での単位は認められ、ドイツ語の試験にパスすれば大学入学資格が得られるそうである。

入学は各コースでおこなう。定員は100人を超えるような文系コースにはあるが、工学系は30から60人程度で特に定員はない。東西統一後は特に工学系の人気がなく、また若年人口の減少もあり生徒募集に苦労しているようである。ただし情報学部は応募者が多く、新たなコース開設もおこなわれている。

各コースの修業年限は異なるが、工学系は5年である。半年を1学期(semester)とし、基礎課程が4学期、本課程が6学期あるので、学位 Diplomを得るのに最低5年はかかる。日本のように教養科目はなく最初からコースの工学系専門科目を履修する。ひとつの講義は週3時間の講義と2時間の演習からなる。1学期に6,7科目選択しなくてはならないので、かなりいそがしそうである。2年の基礎課程終了が関門となっている。この課程後は大学を移ることも可能とのことである。本課程も専門の講義が続き、第7学期(4年生)は半年間の企業研修に出ることが特色である。いわゆるインターンシップ制である。ここで一つのレポートを仕上げる。

8,9学期と再度大学で講義を受ける。この間、講義−演習−実験の連携を保った講義がおこなわれる。学生実験室は無いようで、講義の都度関連した実験が各研究室でおこなわれている。最終10学期は各研究室に所属してDiplomを取得するための卒業研究にあたる。Diplomは米国のように発表と質疑Defenseで判定される。大学卒業の学位 Diplomはみたところその提出論文のレベルからして日本の修士以上に相当するであろう。入学者のうち学位を得るのは7割程度とのこと。

ドイツの男子には10ヶ月以上の兵役があり、多くはDiplom卒業後に軍隊経験をもつ。

コースとしての博士課程はなく、給料をもらいつつ教授のもとで研究することが博士の学位への道である。博士の学位は取得に3-5年かかる。学術論文4,5報は通常であるが、特に学位の基準はなく、教授陣による審査会の判定による。学位取得に成功すると市庁舎前のゲーリックの像の前でお祝いするそうである。

大学の構成

大学の研究室は基本単位がLehrstuhlである。(文字どうり「講座」。英語にはchairと訳している。)一つのLehrstuhlに一人の教授Prof. Dr.-Ing. が居る。ドイツの大学教授の権威はたいしたもので、ちょうど日本の医学部の教授を想像していただくとよい。教授はLehrstuhl内の教官と共同で4つほどのコースの講義をこなす。

もちろん米国同様、教授の主業務は研究費の獲得とその遂行である。米国とは違い、どの教授も平均して10程度の数の研究プロジェクト、研究費の獲得をしているようである。インターンシップ制をコースの必修としているためか、企業からの研究助成がかなり多く、私が詳しく聞いた化学工学科では講座の研究費は米国より多いように感じた。

もちろん当方とは比較にならない。たとえばある教授は年間11テーマで7,900万円の研究費を獲得している。このうち60%は研究員(博士向け研究者、ポスドク)の給料である。化学工学科ではすべての教授がこの程度の研究費を獲得している。)

各Lehrstuhl(Chair)は教授1、メンバー10から20そしてDiplom研究(卒業研究)学生数人で構成される。研究室のメンバーのうち4,5人がポストのある常勤職員。日本の技官に相当するようなベテランTechnicianも数名いる。他は教授が獲得した研究費で雇っている。アメリカのポスドク制度に似ているが、在籍年限は長く、博士の学位取得課程中の者も給料をもらっている。職員以外の研究者は特定の研究費・プロジェクト毎に雇用されているので、プロジェクトの期間が終了すれば給与が停止することになる。

ドイツ政府やECのプログラムにより、東欧・西アジアからの外国人留学生が多い。

講座毎にかならず女性秘書が居る。(ドイツ秘書の事務処理は完璧!)しかし半分の時間は講座の仕事以外の学科共通事務をしているのだそうである。(学科事務室はない?)

講座・Lehrstuhl
比較
新潟大学
工学部
マグデブルグ大学
工学系
教授
助教授・助手
常勤職員 Dr.
ポスドク Dr.
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技官
博士課程学生
博士向け研究員
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修士課程学生
Diplom卒研生
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卒研生 ♀♀♀♀♀♀♀♀  
秘書  

具体的な研究面では(この大学特有なのかもしれないが)企業から依頼された試験研究、大学自身の成果の製品化など実用を指向した研究に熱心である。ただし企業との連携で最新の測定機器や測定手法が直ぐ導入されるので、それを用いたユニークな基礎研究がおこなわれる。このようなことから研究過程での「論文の数」はそれほど多くはでない。(ガスクロはオートサンプラーつき、研究室の学生用パソコンはSunのWSやSGIが普通であった。)

基本的に4つのchairでひとつの分野のInstituteとなる。Instituteは(小さい)学科に相当する。たとえばInstitute for Process Engineering(プロセス工学科=化学工学科)は
    Chair for Chemical Process Engineering 化学プロセス工学講座
    Chair for Thermal Process Engineering 熱プロセス工学講座
    Chair of Mechanical Process Engineering 機械的プロセス工学講座
の3講座。Institute for Mechanics(機械工学科)は4の講座からなる。

さらに10 Institutes が加わり12 Institute 45講座が機械工学部 Faculty of Mechanics を構成する。この他、情報学部Faculty of Computer Scienceは4 Instituteで15講座、電気工学部Faculty of Electrical Engineeringは4つのInstituteで10の講座、以上約70chairsが工学系の学部である。全体で工学系の教授は約60人しかいない。これに日本の助教授・助手に相当する職員を加えた「教官」にあたるメンバーは200人近くと推定されるので、工学系全体では新潟大学工学部より規模が大きいと言えるであろう。(建設系、応用化学系、材料系、バイオ系に対応するものはこの大学にはない)

工学系学部での卒業者数(Diplom取得者)は毎年400-500人である。卒業は入学の50%から70%の割合である。 (うちは100%と言っているコースもある。)

このほかマグデブルグ大学には人文・社会・教育学部(31chairs), 経済・経営学部(12chairs),数学部(7chairs)、自然科学部(10chairs)、医学部(56 chairs)、がある。この大学は機械系の工科大学を母体に発足したこともあり、大学全体としても工学系の割合が大きい.